- 家族信託
- 成年後見制度
- 相続人調査
- 相続放棄
- 相続登記
- 相続財産調査
- 遺産分割
- 遺言書作成
相続基礎知識-01
「家族信託」とは
「家族信託」とは、「財産管理の一手法」です。
資産を持つ方が、特定の目的(例えば「自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付」等)に従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。
これは、「家族の家族による家族のための信託(財産管理)」とも言えます。
家族や親族に資産の管理を託すので、高額な報酬は発生しませんし誰にでも気軽に利用できる仕組みです。
家族信託を行うメリット
1. 後見制度に代わる柔軟な財産管理を実現
元気なうちから資産の管理・処分を託すことで本人の指示に基づく財産管理を行えます。
また、成年後見制度(法定後見・任意後見)などと違い、毎年の家裁への報告義務もなく、資産の積極的活用や生前贈与、相続税対策なども実施することができます。
さらに、本人が判断能力を無くした後は、本人の意向に沿った財産管理をスムーズに実行できます。
そして積極的な資産運用・組替え(不動産の売却・買換・アパート建設等)も、受託者たる家族の責任と判断で可能となります。
2. 法定相続の概念にとらわれない「本人の想い」に即した資産承継を実現
通常の遺言では、2次相続以降の資産承継先の指定ができないのですが、2次相続以降の資産承継者を指定することが可能になります。
3. 不動産の共有問題・将来の共有相続への紛争予防に活用できる
共有者(又は共同相続人)としての権利・財産的価値は平等を実現しつつ、管理の処分権限を共有者の一人に集約させることで、不動産の“塩漬け”を防ぐことができます。
家族信託には上記のようなメリットがありますが、ただひとつ、税務的なメリットがないというのがネックです。
ご自身(もしくはご家族)の判断能力の低下に備え、遺言や成年後見制度を検討されている方のもうひとつの選択肢として「家族信託」を検討されてみてはいかがでしょうか。
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信託する財産は何か
(信託財産) -
誰に信託するか
(受託者) -
何のために信託契約を結ぶか
(信託目的)
相続基礎知識-02
「成年後見制度」とは
認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方を保護するための制度。
成年後見制度のタイプ
区分 | 対象となる方 | 援助者 | |
---|---|---|---|
補助 | 判断能力が不十分な方 | 補助人 | 監督人を選任することがあります。 |
保佐 | 判断能力が著しく不十分な方 | 保佐人 | |
後見 | 判断能力がかけているのが通常の状態の方 | 成年後見人 | |
任意後見 | 本人の判断能力が不十分になった時に、本人があらかじめ結んでおいた任意後見契約にしたがって任意後見人が本人を援助する制度です。 |
認知症、知的障害、精神障害などによって、一人で判断する能力が不十分な方について、申立てによって、家庭裁判所が「補助開始の審判」をして、本人を援助する人として補助人を選任する制度。
補助人は、補助開始の審判を受けた本人が望む一定のことがらについて、同意したり、取り消したり、代理することを通じて、本人が日常生活に困らないように配慮する。
そのため、補助の制度を利用する場合その申立てと同時に、予め同意したり代理したりできることがらの範囲を定めるための申立てをする必要があります。
認知症、知的障害、精神障害などによって、一人で判断する能力が著しく不十分な方について、申立てによって、家庭裁判所が「保佐開始の審判」をして、本人を援助する人として保佐人を選任する制度。
保佐人は、保佐開始の審判を受けた本人が一定の重要な行為をしようとすることに同意したり、本人が保佐人の同意を得ないで既にしてしまった行為を取り消したりすることを通じて、本人が日常生活に困らないよう配慮します。なお、保佐人は、予め本人が望んだ一定の事柄について、代理権を与えるとの家庭裁判所の審判によって、本人に代わって契約を結んだりする権限を持つこともできます。
認知症、知的障害、精神障害などによって、判断する能力が欠けているのが通常の状態の方について、申立てによって、家庭裁判所が「後見開始の審判」をして、本人を援助する人として成年後見人を選任する制度。
成年後見人は、後見開始の審判を受けた本人に代わって契約を結んだり、本人の契約を取り消したりすることができます。
このように幅広い権限を持つため、後見人は、本人の財産全体をきちんと管理して、本人が日常生活に困らないように十分に配慮していかなければなりません。
十分な判断能力がある方が、将来判断能力が不十分になった場合に備えてあらかじめ公正証書で任意後見契約を結んでおき、判断能力が不十分になった時に、その契約にもとづいて任意後見人が本人を援助する制度。
任意後見制度の詳しい内容や利用方法については、お近くの公証役場でご確認ください。
成年後見人になれない人
- 1. 未成年者
- 2. 成年後見人等を解任された人
- 3. 復権していない破産者
- 4. 本人に対して訴訟をしたことがある人、その配偶者または親族
- 5. 行方のわからない人
候補者の選任
候補者の選任は、家庭裁判所で行います。
家庭裁判所では、申立書に記載された成年後見人等候補者が適任であるかどうかを審理し、結果、候補者が選任されない場合もあります。
その場合、被後見人が必要とする支援の内容などによっては候補者以外の方(弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職や法律または福祉に関する法人など)を成年後見人に選任することがあります。
なお、成年後見人にだれが選任されたかについて、不服の申立てはできません。
成年後見人制度を利用するために
成年後見制度を利用するためには、まず後見開始、保佐開始、補助開始の審判を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
申立てに当たって必要とされる主なものは,以下のとおりです。
なお、成年後見人にだれが選任されたかについて、不服の申立てはできません。
申立てに必要なもの
- 申立書
- 申立手数料
- 登記手数料
- 郵便切手
- 戸籍謄本、住民票
- 成年後見に関する登記事項証明書
- 診断書 など
相続基礎知識-03
「相続人調査」とは
相続人調査とは、誰が相続人であるかを戸籍で確認する作業のことです。
相続人が誰であるかは、その親族内では把握できていると思いますが、銀行や法務局、税務署など第三者に対してはその方が正しい相続人であることを証明する必要があります。
そのため、亡くなった人と相続人の関係を客観的に証明できる戸籍が必要となります。よって相続人調査の具体的な作業は「必要な戸籍を揃える」ことになります。
単純に戸籍を集めるだけなら簡単なのですが、人によっては戸籍を何十通も集めなければならないこともあり、その煩わしさから専門家に依頼する場合も多くあります。
1. 相続人の順位と範囲を理解する
配偶者以外は、第1順位である子どもが相続人となります(民法887条)。
子どもが亡くなっている場合は、亡くなった人に一番近い直系卑属が相続人になります。
このように、本来相続人となるはずの人が先に亡くなっていた場合、その者の子どもが代わりに相続することを代襲相続と呼びます。
第1順位が誰もいない場合、第2順位である親が相続人となります(民法889条)。
両親とも亡くなっている場合は、亡くなった人に一番近い直系尊属が相続人になります。
第1・2順位が誰もいない場合、第3順位である兄弟姉妹が相続人となります(民法889条)。
兄弟姉妹が亡くなっている場合は、甥姪が代襲相続します。
なお、兄弟姉妹における代襲相続は一代限りとなります。
甥姪もなくなっている場合には、再代襲は認められず、甥姪の子たちが相続人となることはありません。
2. 亡くなった方の出生から死亡までの全戸籍謄本を取得
相続人第1順位である子どもの有無と人数を確定させなければいけないため、「出生から死亡までの連続した戸籍謄本」が必要となります。
注)戸籍抄本ではなく戸籍謄本が必要
3. 相続人の戸籍謄本を取得
想定外の相続人が出てくる可能性もあることから、相続人調査は非常に重要な作業となります。
相続基礎知識-04
「相続放棄」とは
相続人が、被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のことを相続放棄と言います。
つまり、相続の際に被相続人の資産や負債などの財産全てに対する権利や義務を一切引き継がずに放棄することです。
相続財産には、預金や不動産などのプラスの財産と、故人が債務超過で、その債務を引き継ぐマイナスの財産というものがあり、一般的にはマイナスの財産の場合その債務を逃れるために相続放棄を行うことが考えられます。
また、プラスの財産の相続においてもその大きさ故の相続問題に巻き込まれたくないという場合や、被相続人の財産を特定の相続人に全て承継させたい場合(事業承継等)などの場合にも相続放棄を行う場合も多くあります。
相続放棄は、相続が開始したことを知ってから3か月以内に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出し、それが受理されることによって認められます。
なお、形式的に受理されても相続放棄の有効が確定するものではなく、法律上の無効原因などがある場合は、後でその有効性を訴訟で争うことも可能とされています。
3か月以内で判断がつかない時は、家庭裁判所に期間の伸長の申立てができます。
相続開始後しばらくしてから債権者の請求を受け、そのときに初めて被相続人の債務の存在を知ったような場合には、相続開始後3か月を経過していても、相続放棄が認められる場合もあります。
相続放棄すると、その方は最初から相続人でなかったことになります。
放棄者の直系卑属(子、孫など)について代襲相続が起きることもありません(第887条2項参照)。
相続放棄により、法定相続における後順位の者が相続人となります。
例えば、すべての子が相続放棄をすると、直系尊属(父母等)が相続人となります。
さらに全ての直系尊属が相続放棄をすると、兄弟姉妹が相続人となります。
また、被相続人の配偶者は常に相続人となります。
相続基礎知識-05
「相続登記」とは
相続登記とは相続する不動産の名義変更のことです。
不動産の登記とは、法務局で管理する登記簿に、どこにあるどんな土地・建物に関して、所有者がだれで、担保としてどこからいくらの借り入れがあるかといった情報を記録するものです。
これによって第三者に対し、その不動産の権利を明らかにする制度です。
相続で不動産を取得したら、亡くなった人の名義で登記されていた土地または家屋を自分の名義に変更する「所有権の移転登記」を行うことで、名実ともにその不動産の所有者になったことを証明できます。
相続後に、その不動産を売却したり、賃貸活用したりする際も、先に相続登記を済ませておくことが必要です。
不動産の登記は、その不動産の所在地を管轄する法務局で行います。
不動産は、土地、家屋に分けて登記されているので、まずはそれぞれの所有者を確認します。
土地は一つの敷地として利用していても登記簿ではいくつかの筆に分かれていることがあり、一筆ごとに登記されているので、それぞれの面積もチェックが必要です。
家屋は床面積の他、どういう建物か、構造などを確認しなければいけません。
亡くなった人の所有していた土地・家屋が、配偶者や他の親族との共有名義になっていたら、相続できるのは亡くなった人の「持分」だけになります。
また、敷地につながる私道が近隣世帯との共有名義になっている場合や、区分所有マンションの敷地も、亡くなった人の持分が登記簿に記載されているので、その持分を相続し名義を変更することとなります。
遺産相続については、遺言書があればそれが優先されるため、その遺言で不動産を引き継ぐ人を確認します。
遺言書がない場合は、相続人による遺産分割協議で遺産の分け方を話し合い、不動産についてもだれが引き継ぐかを決めることになります。
決めた内容に全員が合意したら、それを遺産分割協議書にまとめ、相続人全員の署名・捺印をして完了となります。
手続きは個人でもできますが、作業が煩雑なため多くは司法書士など専門家に依頼するケースが多くみられます。
遺言または遺産分割協議により、亡くなった人が所有していた土地・建物を1人の人が引き継ぐ時は、その人の名義に所有権を移転する単独登記になります。
所有者が1人のため、その土地・建物を担保に融資を受ける、売却するなどの判断も1人で行え、以降の手続きもスムーズに行えます。
また、遺言や遺産分割協議によって兄弟姉妹などが共有で不動産を引き継ぐケースなどの場合、共有登記となりそれぞれの持分(所有割合)を明記して登記します。
- 登記申請書
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 遺言または遺産分割協議書
- 被相続人の死亡時から出生時までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票
- 法定相続人の印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
なお、相続した不動産を登記する際は他に「登録免許税」がかかってきます。
※所有権の移転登記をする場合の登録免許税の計算方法
土地・建物それぞれ→固定資産税評価額×1,000分の4 (千円未満は切り捨て)
不動産の登記については、これまで法律的な期限が定められていなかったため、手続きが面倒だったり、相続で揉めたりして、所有者死亡後はそのまま放置されるケースもありました。
しかし、相続後にきちんと登記をしていないと、相続する不動産の売却・賃貸ができなかったり、相続する不動産を担保に融資を受けることができなかったりもするため、決められた期限はありませんが、できるだけ早めに済ませた方がいいと言えます。
相続登記の義務化
相続登記についてはこれまで法的なルールが定められていませんでしたが、相続登記の義務化に関する法案が2021年4月21日に参院本会議にて可決・成立し、施行日が「2024年4月1日」と定められました。
相続登記については、相続により取得することを知ってから3年以内に登記申請を行うことが義務付けられ、違反すると10万円以下の過料が課されます。
10年たっても遺産分割が決まらない場合は、法定相続割合で分割することも定められます。
また、所有権を登記した人が引っ越して住所を変更したり、結婚などで氏名が変わったりした際にも、住所・氏名変更の登記が必要で、この申請は2年以内と定められ、違反すると5万円以下の過料になります。
これらは改正法の施行後に新たに相続する人が対象となります。
施行前に相続が発生する場合は、一定の猶予期間を定めて適用することも予定されていますので、これから相続を迎える人は十分な注意が必要です。
相続基礎知識-06
「相続財産調査」とは
相続財産調査とは、相続人の間で個人の遺産を分割する話し合いをする前提として、誰が相続人に当たるか、故人の遺産はどれくらいあるか、ということを調べることです。
相続人の範囲は、戸籍などを調査することによって確定させることができますが、遺産の範囲は、さまざまな可能性を考えてしっかり調査しなければ確定させることができません。
また、遺産には預貯金や動産のようなプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
相続財産調査は、亡くなった方(被相続人)の全ての財産を調べる必要があります。
銀行口座はもちろん、不動産、有価証券、生命保険や損害保険、車両、また、他人と貸し借りしているお金はないかといったことまで、ひとつひとつ丁寧に調べなければなりません。
また、最近ではインターネット上で取引ができ、通帳を発行しないタイプの銀行口座も多数あります。
このようなインターネットバンキング口座については、家族が全く把握していない、存在自体知らないということも珍しくありません。
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本
(出生から死亡まで) - 被相続人の住民票の除票
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人らの印鑑証明書
- 相続人の身分証明書
(免許証、健康保険証、個人番号カード、
年金手帳、パスポート、住民票)
上記「1」は戸籍等が複数あることが一般的で、複数の機関に提出する必要があり非常に手間がかかるため、管轄の法務局に対して、法定相続情報一覧図の保管および交付の申請手続きを行い、法定相続情報一覧図を取得しておくと大変便利です。
調査対象となる財産
- 預貯金
- ゴルフ会員権
- 貸金などの金銭債権一般
- 著作権、工業所有権など
- 借地権や借家権
- 不動産(登記の有無を問わない)
- 受取人を被相続人本人に指定した生命保険
- 車両
- 株式(株主としての地位)
- 貴金属その他動産類
- 投資信託
- 債務(ローン、借金)
- 有価証券
借金などのマイナスの財産も遺産相続の対象となる
相続人が引き継ぐ財産は、預金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続の対象となります。
相続基礎知識-07
「遺産分割」とは
遺産分割とは、法律で決められた相続人が全員参加して、相続財産の分け方を決定する手続きのことをいいます。
相続が発生すると、原則として、遺産は法律で定められた相続分(法定相続分)の割合で相続人らが共有することになります。
共有状態になった財産の管理・処分は、相続人同士で決めなければならず、不便なことが多くなります。
また、時間が経つと更に次の世代の相続が発生(数次相続)して権利関係が複雑になってしまうので、早期に遺産分割を行うことが大切です。
遺産の分割方法
1. 分割方法
遺産は、相続人が数人いる場合は、相続がはじまってから分割されるまで、共同相続人の共有財産になりますが、各相続人はいつでもその分割を請求することができます。
遺産分割協議が成立して遺産が分けられると、はじめて共有財産が、相続開始の時にさかのぼって、各相続人の財産になります。
2. 指定分割(遺言で指定する分割方法)
遺産分割に関しては、遺言による指定が最優先されます。
3. 協議分割(共同相続人の協議によって決める分割方法)
A)分割協議
遺言書で処分を決めていない財産がある場合、または包括遺贈の場合は、遺産分割協議をして、相続人、包括受遺者間で遺産の分配を決めます。
前者の場合は、法定相続分に適合するよう分割すべきだが、自由な協議で決まれば必ずしも法定相続分によることなく、ある人の相続分を減らして、その分を他の相続人が取得することもできます。
例えば、相続人の中に全く相続しない人がいてもよく、その場合、その人は相続分の放棄をしたことになります(相続の放棄とは異なります)。
B)遺産分割協議書
協議がまとまるとその証拠に遺産分割協議書(印紙税は非課税)を作成して、全員が署名捺印(実印)します。
1人でも欠けると無効になります。
この協議書は、相続財産の名義変更や相続税申告のとき必要。
C)遺産の分割方法
不動産など分割困難な遺産は、共有とすることもできるが、その後の管理や将来の売却が困難になるので、分割できるように売却して金銭に換えたり、代償分割といって現物を取得した人が代わりに金銭を支払う(あるいは債務を負担する)ことがあります。
34. 調停分割・審判分割(裁判所の判断によって決める分割方法)
協議がまとまらない時は、被相続人の所在の管轄家庭裁判所に遺産の分割を申立てることができます。
家庭裁判所はまず調停を試みますが、調停が成立しなければ審判が行われます。
家庭裁判所は相続人と相続財産を確定し、財産の評価を行ったうえで、遺産や相続人の事情を考慮し、相続分に応じて妥当な分割方法を定めます。
審判に不服な者は2週間以内に高等裁判所に抗告することとなります。
相続基礎知識-08
「遺言書作成」とは
遺言書とは、被相続人が相続に関する自分の意思を示すための書類です。
遺言書を作成する理由は、遺言書があれば、その記載内容が法定相続分よりも優先されますが、遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行って分割方法などを決めることになります。
遺言書がなければ、被相続人の意思を示すことができないのです。
しかし、遺言書を作成しておけば、被相続人の意思にもとづいた相続分割ができるようになります。
また、相続人以外への遺贈も可能となります。
例えば、子どもの配偶者が長年介護をしてくれていても、子どもの配偶者は法定相続人ではないため相続する権利はありません。そのような法定相続人ではない方にも財産を残したいなどの場合にも、遺言書を作成してあれば効力を発揮します。
また、相続人の遺留分も考慮する必要があります。
配偶者と子ども、孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属には、最低限相続できる遺留分が認められているため、特定の相続人に多めに遺産を相続したい場合でも、意思どおりにならないことも多々あるのです。
遺留分の割合は法定相続人が誰になるかによって異なるので、遺言書を作成する際には専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
遺言書の種類
1. 自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、被相続人が手書きで作成した遺言書。
ただし、財産目録については、2019年の民法改正によりパソコンで作成したものでも認められるようになりました。さらに、預金通帳の口座情報がわかる部分のコピーや登記簿謄本のコピーなども、目録として添付することもできます。
自筆証書遺言は、ほかの遺言書作成には必要な証人が不要で、署名・押印は本人のものだけで作成できます。
しかし、本人が保管することになるため、家族に自筆証書遺言の存在を知らせていなければ、見つけてもらえない場合や、紛失・改ざんなどのリスクがあります。
また、自筆証書遺言としての形式に則っていない場合、無効になるリスクもあるので注意が必要です。
新たに2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まりました。
この制度を利用すると、遺言書の紛失・改ざんを防ぐことができます。
2. 公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書としての遺言書。
公正証書遺言を作成する際には、遺言者が遺言書を書いたことを証明する証人が2人以上必要になります。また、本人と証人、公証人の署名・押印も必要です。
原本は公証役場に保管し、正本は本人が保管します。
公正証書遺言を作成する場合には、財産の額に応じて費用がかかります。
3. 秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも知られないように作成する遺言書。
遺言書を自分で作成し、内容を秘密にすることができますが、公証役場で公証人と証人2人以上に秘密証書遺言だという確認をしてもらわなければなりません。
遺言書には本人が署名・押印し、封筒には本人と証人、公証人の署名・押印が必要です。
また、秘密証書遺言を作成する場合は、公証役場の手数料がかかります。
被相続人が遺言書を作成していた場合、被相続人が亡くなっても遺言書を勝手に開封してはいけません。
自筆証書遺言と秘密証書遺言がある場合は、家庭裁判所で相続人立ち合いのもと、遺言の内容を明確にして偽造を防止し、相続人に対して遺言の存在・内容を知らせる検認作業が必要です。
遺言書を勝手に開封すると罰金が科せられる可能性があるため、取り扱いには十分注意が必要です。
なお、公正証書遺言は検認が不要です。
検認手続きの流れ
- 家庭裁判所への申立て
- 検認日の通知
- 検 認
- 検認済証明書の申請
検認が不要なケース
検認の必要はありません。